喫茶店と日常

喫茶店とジャズと食べることが大好きな人間のちょっとしたつぶやき。

エクリチュール、手紙について

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 手紙と聞いて、私が思い出すのは、ラブレターやファンレター。もしくは、贈り物に添えてみたり、心から感謝を伝えるためのおまじない。そんなロマンチックな感情を呼び起こすアイテム。心のやわらかいところにすとん、と届いて、忘れられない。お花や動物が描かれ、金色の装飾の入ったお菓子の缶の中へ、大切にしまいこんだ数々の想い。

 手紙。それは、時をプレゼントすることだと思う。

 レシピのはじめ、まずは便せん選びから始まる。その人の好きなものを思い出してみたり、似てる動物モチーフのものを手に取ってみたり。便せんの下ごしらえ完了。
次に、気に入りの書き心地のペンを持って、相手の姿をありありと思い浮かべる。どんな表情をしていたっけ。何気なく交わした一言がよみがえってくる。手紙を書くことも忘れ、「そんなこともあったなあ」と思い出に浸ってみる。
 紙に乗せた気持ちは、すぐに言い直すことができないから、慎重に言葉を選ぶ。書き連ねた文章には、気持ちと一緒に相手を想う時間がブレンドされていて、唯一無二の味わいが生まれる。
 便せんをそっと折りたたみ、封筒に入れ、しっかりと糊付けをする。仕上げにシールを貼り付ければ完成!
 そうしてできあがったものが相手に届くまで、またしても時というふるいにかけられる。すぐに伝わらないからこそ、相手が自分を想ってくれた時間をより一層愛おしく感じるのだと思う。想いを伝えることもだけれど、その過程すら淡く甘く心に残るのが、手紙のすてきなところ。

 書くことは、いたって原始的でありながらなんとも不思議なエネルギーを持っていると思う。でも、ちょっと考えたら少し前までは、手紙自体がポピュラーな連絡手段であったはずだし、感じるほど特別な行為ではないのかもしれない。この時代、もっと簡単な手段があるからこそ、手間暇かかるアナログの温かみが際立ってくる。例えるならば、今あえてLP盤で音楽を聴くことに尊さを感じるのと同じような、郷愁の香り。

 フランス語では書くこと、書かれたもの、文字のことを総じて「Ecriture(エクリチュール)」と呼ぶらしい。なんてことない、英語では「Writing」に当たる言葉だけれど、それ以上になんだか素敵な響き。

 エクリチュール。その言葉を口に出したら、どうしたものかやわらかい飲み物が欲しくなって、深く沈む夜、牛乳たっぷりのミルクティーを淹れてみた。そして、そのあたたかなベージュ色の水面へ、黄金色に輝くラム酒をそーっと混ぜたのだ。

(学校で行っている活動で、「手紙」というテーマで文章を募集されていたときに書いたものです。)