喫茶店と日常

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【書評】『狂人日記。戦争を嫌がった大作家たち』

 本を読んでもあまり書評を書くという発想がなかったのですが、なんとなく読んだ本が色々考えさせられて壁打ちでメモしていたら1000字を超えたのでなんとなく投稿してみます。あんまり練ったものではないので恥ずかしくなったら消します…(笑)

 いつもと毛色の違う記事ですが、よろしくお願いいたします。以下、本文です。 

 

 先の戦争の最中、嫌な匂いが立ちこめる中で「戦意高揚もの」に手を出さず、自分の世界観、耽美や女性のエロスを描き続けた谷崎潤一郎を讃美しつつ、彼と関係のある文豪や当時の日本の様子や文豪の生き様を「みんなは言わないけど本当はこうなんだ」と暴露のように綴る本。

 俺は知っているんだぞ、という気持ちが伝わってくる。私の理解力の欠乏のせいか、この本が結局何を伝えたかったのかがイマイチ分からなかった。本としてはあまり面白くないというか、眉唾くらいに読まないといけないけど、この人の講演を書き起こしたと思えばめちゃくちゃ面白い。

 本筋とは関係がないが、”自室に閉じこもり、インターネット上に浮遊する情報だけを切り貼りしただけの文章を、私は相手にしない“という痛烈な批判は大変胸が痛かった。自分も大概「コタツ記事製造機」なのだと思う。

 この著者は自ら足を運び、「こう言われているが、実際はこうだった」という事実を伝えてくれるのが面白い。私も足を運べる範囲のものは実際に赴き体感するという姿勢を持ちたい。しかしながら、“谷崎の霊魂と話した”というのは誠だろうか。だとすると、著者は谷崎と何を語らったのだろうか。

 本書では、「文学とはエロスだ」と主張している。事実、私が想像していたよりも文豪たちの私生活というのはスキャンダルに見舞われていた。こんな強烈な生活をしていても、作品は語り継がれていく。昨今、製作陣が事件を起こしお蔵入りになる・配信停止になるといったことについて議論が交わされているが、文豪を例にとれば、本当に良い作品なら製作陣は関係なく残していくべきなのではないだろうか。判断は視聴者に任せるべきだ。任せられないほど国民の質が下がっているのかもしれないと言えばそうかもしれない。

 谷崎に話を戻すと、戦時中の国民の実情はどうであったかを知りたい私としては、彼のように戦争など意に介さず、自らの美意識を貫いた作家がいるという事実は大変興味深かった。暗雲立ち込めるご時世、先人に戦時中の在り方を学ぶことは大変意義深い。そしてそんな谷崎が、同時代の文豪の中で一番長生きしたというのも面白い。

 そして、本書を通して感じたのは、戦時中出版できなかった『細雪』を出版できるよう取り計らった中央公論社の嶋中雄作こそ一番の立役者なのではということだ。

 作家を生かすのは、優れた編集者、優れた出版関係者だと思う。自分もそのような己の義を貫く編集者になりたい、とつくづく感じた。


 本としてはあまり面白くない、と書き連ねてしまったが、これだけの感想を書かせる本書は大変面白い一冊だろう。